私が今までに読んできた投資本についてまとめてみた。
『バフェットからの手紙』のまとめは既に書いたが、ここではそれ以外の投資本について読書案内およびレビューをしてみたい。

まずは有名なものとして、『ウォール街のランダム・ウォーカー』と『敗者のゲーム』について。これらを読めばインデックス投資の哲学や有効性が理解できる。
投資というのは不思議なもので、プロがしのぎを削っている中で「市場平均」を買うだけで、同じ世界で素人でも70点を取ることができる。だからもうここで勉強をやめて、あとはS&P500のインデックスなんかを定期購入していってもいい。投資にそれほど時間を割けないという人もいるだろうし。インデックス投資の有効性をネットで確認できるなら、上記の二冊を読む必要さえないかもしれない。
それでは飽き足らないという人は先に進もう。実際のところ、この二冊は投資の勉強を進めてから読み返すと、インデックス投資に偏重した書き方をしているところに不満を感じたりもする。市場平均以上の投資成績を上げ続けている人達は「偶然」や「幸運」でそうなっている訳ではなく、投資の勉強を続ければ70点以上を取るための方法論も分かってくるだろう。

という訳で、まずは『投資で一番大切な20の教え』のレビュー:



『投資で一番大切な20の教え』

・バフェットが株主総会で配ったくらいだから、内容については間違いのないところ。
・インデックス投資について勉強した人が、その次くらいに心構えを整えるために読むのがいいと思う。
・リスクを取るだけなら誰にでもできる。問題はリターンに見合ったリスクを取っているかどうか。
・内在価値を推定できなければ、そもそも今の株価が割高か割安かは判断できない。
・バブルの発生と崩壊。その時の市場参加者の考え方が参考になった。市場が明らかに過熱ぎみでも、その傾向が何年も続いて自分もその渦中にいる時に逆の考え方をすることは難しい。
・初心者が「長期・分散・積立」を合言葉にして投資を始めても、実際の暴落に見舞われた時にその原則を守れるのか? こういう本をあらかじめ読んでイメージトレーニングしておくといいだろう。
・追従の買いや狼狽売りが「下」で、原則通りの投資が「中」とすれば、著者の一番のメッセージとしては市況の波を読んで有利にふるまう「上」を目指しましょうということだ。



では実際にどのような個別株を買えばよいかというと、財務内容と比べて株価が安い「バリュー株」を買うというのが一つの王道だ。『ウォール街で勝つ法則』は、その集大成的な労作だ。以下はそのレビュー:



『ウォール街で勝つ法則』

・EPS成長率, 利益率, ROEといった株価を見ない指標は単独では上手く機能しない。
・逆に株価を参照する指標はどれも単独でも上手く機能する。

 売上高>純利益>配当金

これを川の流れにたとえると、中小企業ほど上流の数値が重要で大企業になるほど下流の数値が重要になる。(スタートアップ企業等でまだ黒字化していなければ、そもそも売上高しか参照できない)
これらと株式時価総額の比率から成る指標(PSR, PER, 配当利回り)が良い銘柄への投資はいずれも長期的には上手く機能してきたようだ。(本書に示されているのは配当金を再投資しない場合のパフォーマンスなので、そこは補正して見る必要がある)
そういえばクレイマーの本でも高配当株への長期投資の有利さが強調されていた。

これらとは全く別種の財務を見ない指標として、レラティブ・ストレングスというものも本書には登場する。これは要するに過去1年間の値上がり率のことを指し、株価の伸びに勢いがあるものほど指標の数値が高くなる。こちらも長期投資には大変有効だ。

といった訳で本書の最終結論としては、「投資の半分を高配当利回りの大企業である大型株に振り向け、残り半分を高収益率や低PSR、高レラティブ・ストレングスを一貫して保っている全銘柄に振り向ける(p.370)」のがオススメの戦略ということになる。(ここで「全銘柄」とは企業規模に関係なく市場全体から銘柄を選べという意味である)



定量評価は数字だけを見ればいいので分かりやすいが、より詳しく企業を調べたいなら定性評価は欠かせない。『千年投資の公理』はそんな時にオススメの一冊だ。この本では業績を維持するのに必要な「参入障壁」を中心として、企業を定性的に分析している。
定量評価については第13章で軽く扱っているだけであるが、それでも「アナリストによるPERの予想値は足元の経済状況に影響されてかなりぶれる」とか「高いROCのもとでの成長は、低いROCのもとでの成長よりも価値がある。PEGに目を奪われているとそれが分からない」といった重要な指摘がさらっとなされている。

さらに、初心者向けではないが『株式投資で普通でない利益を得る』にも企業を定性的に評価する方法が書かれている。「株について調べるべき一五のポイント」は本書の目玉だろう。著者のフィッシャーはバフェットに影響を与えたことでも有名。



さて、ここまでは「理論」寄りの話が多かった。次に、一流のファンドマネージャーが具体的にどのように株を選別しているかについての書籍に当たろう。『ピーター・リンチの株で勝つ』と『全米No.1投資指南役ジム・クレイマーの株式投資大作戦』は個別株投資の指南本として有名だ。それらの直接のレビューというより、ここではインデックス投資とファンドマネージャーの関係について感じたことを書いてみたい:



『ピーター・リンチの株で勝つ』では、p.124からとp.259からの、個別株をその特性に応じて六つに分類しているところが特に勉強になった。(まとめてくれている方がいます→ https://www.youtube.com/watch?v=tQvessCPaAM

全体的な内容については一読して下さいとしか言えない。プロの技にケチを付ける気にもなれないので。

インデックスと比較される立場にあるファンドマネージャーという点でいうと、世はインデックス投資全盛で、投資のプロでも市場平均には勝てないなどと言われている。しかし、『株で勝つ』を読むとそれはちょっと話が誇張されているのではないかと思ってしまう。財務分析を行い、企業回りをして経営者の話を聞き、店舗があれば実際に足を運んで商品やサービスを調査する。著者のこのようなファンドマネージャーとしての活動が無価値であるはずがない。
それでもプロが市場平均に勝つのは難しいらしい。最もよく言われる理由としては、手数料が格安のインデックスファンドと比べると、プロが運用する場合は信託手数料が高くてそのコストの分で負けてしまうというものだ。
そしてプロであればこそ、市場平均は常に意識せざるを得ないという。1年という時間は企業の利益成長からリターンを得るという投資の王道から考えると短すぎるが、近視眼的な顧客から本年度の成績がインデックスを下回っていることを責められると、じゃあもう市場平均に近いポートフォリオを組んでおけとなってしまう。そういう顧客へのレポートに時間を取られると企業分析という本来の仕事にも支障をきたしてしまう。
さらにファンドの規模が大きくなると、自分自身の取引で市場を不利な方向に動かしてしまうし、そうであればなかなか小型株も組み入れにくい。
諸々のことを考えると、「プロでも市場平均に勝つのは難しい」となるのだろう。それでもプロに活躍してもらいたいのであれば、彼らを長期のスパンで信用して自由に仕事をさせるしかない。
著者のピーターリンチは結果を残したプロだが、勤務先で必要な裁量を与えられていたようだ。

『全米No.1投資指南役ジム・クレイマーの株式投資大作戦』も素晴らしい本だ。相場サイクルの説明とそれをまとめたp.175の図は本書の真骨頂だろう。

この本も内容については一読して下さいとしか言えない。プロの凄味が分かると思う。著者が富裕層向けのヘッジファンドを運用して結果を出し続けていた頃は私生活をほぼ犠牲にするほどの激務だったようだ。市場平均以上の利益を求められるし、彼のファンドは「売り」にも対応していたので、相場全体が下がった場合にもそれに応じた利益を期待されたそうだ。「それで、今日は私の資産はどれだけ増えたのかね?」と常に聞かれるような環境だから当然ハードワークになる。
そういう仕事のやり方に限界を感じて、追加募集を制限しないタイプの一般的な投資信託の運用もやったそうだか、そちらはそちらで矛盾を感じたようだ。というのも彼の運用していたものについて言うと、ヘッジファンドの利益が20%の成果報酬となるのに対して、投資信託は運用資金の1%が毎年の報酬となるため、ファンドマネージャーは運用成績の追求よりも信託の売込みに力が注がれがちになるからだ。そして、そうやってファンドが巨大になると、特色のある小回りのきく投資が難しくなり、ハンディキャップを抱えながら投資せざるを得なくなってしまう。

仮に市場全体に迫るほど規模の大きなファンドがあれば、その成績は市場平均に近くなるはずだから「市場平均を常に大きく上回る巨大ファンド」というのはそもそも矛盾している。
だからといって、「プロでも市場に勝つのは難しい。インデックス投資こそが最強!」と雑にまとめるのも間違っていて、ファンドマネージャーはその制約の中で最大限のパフォーマンスを発揮しようと日々努力している。

これらは二冊とも、銘柄選別によって市場に打ち勝つためのプロの様々な技が惜しげもなく公開されている。



さて、株取引についての正しい知識を身に付けても、実際に取引を始めると自分のメンタルが理論的に正しい取り引きをすることを妨げることが多い。そこで、デイトレーダーから知見を得ることにしよう。これは短期取引をする気が無くても有用だ。という訳で、『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』と『トレーダーの精神分析』のレビュー:



『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』

トレードの前に取引ルールを決めておいて、それを厳格に実行する。心理的な要因(損切りは負けを認めるようで嫌、等々)で実行できないことがないようにする。失敗した時には心理的な要因を含めて原因を紙に書き出してしっかりと認識し、次回以降の改善に役立てる。核心部分をまとめればこれだけのことで、本書で繰り返し言及されている。

その他、印象に残ったこと:
・大衆(素人衆)の逆を張ることで儲かる。素人からカモることで稼ぐというのがデイトレードの実態らしいが、それは聞いていてあまり気分のいいものではない。長期投資で企業の利益創出の分け前に預かるというのとは別の発想だ。
・マーケットメーカーが一番儲かるらしい。売り手と買い手を結び付けて鞘を抜くのだから、そりゃリスク無しで稼げるよねw
・ファンダメンタルに基づいた投資で成果をあげるには通常1.5〜5年かかる。
・ある企業のことを全て知ったとしても、ファンダメンタルからその企業の株をいつどのように買えばいいかは分からない。(だからテクニカルの知識が役に立つ)



『トレーダーの精神分析』

一番印象に残っている部分は「トレード技術とは結局のところマーケットのパターン認識に尽きるので、しょっちゅう相場の動きから目を離しているトレーダーよりも、スクリーンの前に座ってそうしたパターンを探しているトレーダーのほうが成功する確率は高い。(p.181)」というところだ。

これと関連して、画面上に次々に現れる点についての実験の例が紹介されていたが、それによると位置が完全にランダムであれば学習効果は得られないが、ある種のパターンに従っている場合、そのパターンを明文化できなくても次に来る点の位置を予測できるようになっていくのだそうだ。

そして学習の結果、『上手いトレーダーは「自動的に」トレードしているように見える』ようになる。あたかもトレーダーの脳内にそういうプログラムがインストールされているようではないか。

以上は瞬時の判断が求められるデイトレーダーの場合についてだが、長期投資家なら自分のトレードルールは明文化しておいた方がいいだろう。そのために短期投資家とはまた違った、長期の株価変動に関係する要素について学習する必要がある。長期投資家の思考とは投資プログラムの「コード(明文化された動作方法)」を書き上げていくようなものなのかもしれない。

本書全体からもう一つ印象に残っている部分を挙げるなら「ベテラントレーダーと大胆なトレーダーはいるが、ベテランで大胆なトレーダーはいない。(p.396)」というものがある。



投資の際のメンタルについて、『行動科学と投資』も参考になる。この本で一番印象的だったのは、「私たちの体はまず行動して、そのあとそれを解釈しようとする。(p.260)」という部分だ。



さて、長期投資においては「株式」の歴史について知っておくことも有用だ。そういう時にうってつけなのがシーゲルの『株式投資 第4版』と『株式投資の未来』だ。前者は「経済」寄りの内容で通称“緑本”、後者は「経営」寄りの内容で通称“赤本”。長期投資家にとっては両方ともバイブルだがここでは“赤本”をレビューする:



『株式投資の未来』

S&P500指数の組み入れ銘柄は時代によって変わっていくが、組成当初の銘柄をずっと持っておけば指数自体のパフォーマンスを上回るそうだ。原因としては新たに組み入れられる銘柄に対する期待が高すぎて株価が高くなりがちなため。IPOを初値で買い集めるという戦略も指数に負けてしまう。大切なのは期待が高いことではなくて、市場で想定される期待を超えること。元々期待が低かったフィリップモリスが歴史上では最高のパフォーマンスを示した。

本書では配当の重要性が繰り返し強調されている。これは安定配当の老舗企業の重視につながる。それを踏まえてp.160の図を眺めるとちょっと面白い。世界恐慌前の最悪のタイミングで資金を株に投じても、配当を再投資することで追加資金なしでその後の25年間の平均リターンは年率6%を超えていることが分かる(指数自体は25年でやっとトントンになる)。

人口動態的に先進国はどこも高齢化が進むので、退職者がいざ自分の金融資産を売ろうとしても買い手市場となり満足な老後資金が得られない可能性があるのだそうだ。だから中国やインドといった新興国の人に買ってもらうことで解決になるということだが、さすがに今ではこの考え方は危険だと思う。アメリカの企業が中国の支配下に置かれるということを意味するので(この本が書かれた当時はBRICsがもてはやされていた)。

学者の書いた硬い本というイメージがあったが、アメリカの産業史が知れて読み物としても意外に面白かった。



そして、ちょっと番外編的だがビジネス書の古典である『ビジョナリーカンパニー』は、長期投資に適うような今後の覇権企業の条件について示唆を与えてくれる。以下はそのレビュー:



『ビジョナリーカンパニー』

時代を超えて成長する「ビジョナリーカンパニー」について書かれている。第二章の書き出しがこの本の主題を魅力的に表現しているので、以下に引用してみる。

 昼や夜のどんなときにも、太陽や星を見て、正確な日時を言える珍しい人に会ったとしよう。「いまは一四〇一年四月二十三日、午前二時三十六分十二秒です」。この人物は、時を告げる驚くべき才能の持ち主であり、その時を告げる才能で尊敬を集めるだろう。しかし、その人が、時を告げる代わりに、自分がこの世を去ったのちも、永遠に時を告げる時計をつくったとすれば、もっと驚くべきことではないだろうか。
 すばらしいアイデアを持っていたり、素晴らしいビジョンを持ったカリスマ的指導者であるのは、「時を告げること」であり、ひとりの指導者の時代をはるかに超えて、いくつもの商品のライフサイクルを通じて繁栄し続ける会社を築くのは、「時計をつくること」である。

つまり本書のテーマは時代を超えて繁栄する企業を作るための組織論である。その核となるのは「具体的で高い目標と企業原則の設定」となる。当然社員は激務となるが、そういう企業は優秀な社員に対してはカルト的な吸引力があるので上手く回るのだそうだ。その事業については、ビジネスアイデアが固まっていない時点で見切り発車をしてもよいというのは意外だった。それでも原則を曲げることなく環境の変化に合わせて不断の試行錯誤をすることが成功への道となる。
まとめるとこれだけのことだが、言うは易く行うは難しであろう。上記を実行している企業の具体例が本書には色々と出てくるが、なるほどそこまでやれば事業は大きく成長するだろうと納得させられるものばかりだ。

原著が執筆されたのは1990年と少々古い。「ビジョナリーカンパニー」のほとんどはアメリカ企業だが、唯一の日本企業としてソニーが選ばれている。そのソニーの製品として、ウォークマンは存在するがプレイステーションはまだ世の中に出ていない。時期としてはそんなところだ。つまりIT技術の普及以前、GAFAM以前に覇権を握った企業群についての文章ということになる。
本書の最初の方には、市場平均と比べて「ビジョナリーカンパニー」の株価の伸びが長期にわたって良好であることが示されているのだが、残念ながらそれらの企業の最近の株価は全体としてはパッとしない。つまり「時計」の作り手は他の企業に移ってしまったということなのだろう。しかしたとえそうであっても、本書は繁栄する企業の「原則」を示したビジネス書の古典として今でも十分に通用する。



以上。
ややツギハギ的な紹介になってしまったが、学校教程のように単元をきっちりと区切れないという事情もある。どの本を開いても、比重の置き方は違えどたいていはファンダメンタルや市場心理や個々の企業の特性については書かれている。現実の株取引ではこれら全ての要素が関わってくるからだ。よって、個別株投資のスタートラインに立ちたければ代表的な投資本は全て読まなければならない(今回紹介した本だけでも一応必要な知識は網羅できる)。初学者だと読破するのに2〜3ヵ月くらいかかるかもしれないが、虎の子を投じるのだからそれくらいの準備をしておいても罰は当たらないだろう。

それでは、良い投資ライフを。







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