ウォーレン・バフェットは投資会社のバークシャー・ハサウェイ社を運営する世界一有名な投資家で、傘下のコングロマリット(複合企業)を長年にわたって見事に統括してきた人物であり多くの人の尊敬を集めています。
氏の発言については様々な形で引用・論評されていますが、肝心の彼の投資手法そのものについては、本人名義で出ている書籍というものはありません。しかし、バフェットはバークシャー社の株主に向けて運用報告や投資哲学について書かれた「手紙」を定期的に送っており、これを編者が分類・整理した本が出版されています。
「書き下ろし」ではないものの、これはバフェットが書いた「成書」といっていいでしょう(なお、一部の節はバフェットの相棒であるマンガーの文章です)。そしてこのような本は他にないので、バフェットが自分の投資手法について書いた事実上唯一の本といえます。その邦訳も『バフェットからの手紙』というタイトルで出版されています。

本書は「序文」と「プロローグ」を飛ばして第1章から読むのがオススメです。というのも、「序文」は編者による本書全体のまとめであり、いきなりここを読んでも内容が理解しにくいからです。そして、「プロローグ」はバフェットによる「手紙」で、ここもまとめ的には重要な箇所ですが、株主に向けて運用の諸原則を示す文章なのでやはり最初に読んでも難解でしょう。
という訳で、第1章から最後の第9章までを読んだ上で最初に戻って、「序文」と「プロローグ」を読みましょう。そうすれば自ずと内容は理解できます。

本稿では、原書第4版の邦訳の第1章から第9章までをテキストとして、本文を引用したり、内容をざっくりとまとめたり、私の解説を加えたりしていきたいと思います。言うなれば、勉強用に自分で本に入れたアンダーラインや書き込みを公開しているようなものです。


 − 凡例 −
(p○○)(p○○〜○○)はページ数
青文字のボールド体は本文からの直接の引用
青文字の標準体は内容をくだけた調子で要約したもの
黒文字は内容についての私なりの解説や雑感

   ――――――

(p78)
一般的な株主総会とかハッキリ言って時間の無駄だけど、我がバークシャーの総会は参加する株主が年々増えているし、彼らの質問もビジネスに関する多岐にわたる思慮深いものばかりだ。だから私も喜んで彼らの質問に答えよう。

(p8184)
CEO
が「我が社は毎年15%ずつ成長する」とか言ってたら大いに警戒するべき。たいていその数字は大きすぎるし、それを達成するために会計上の不正を働くこともしばしばだから。だいたいビジネスの一寸先は闇な訳で、数字付きで将来予測できるとかありえないから。

(p8487)
取締役会はCEOを選出するが、もし彼に問題があっても経営トップの実績を判断してクビにするというのはなかなか難しい。しかし、バークシャーがずっと株を持つことに決めている企業のCEOは能力・人格共に素晴らしい。

(p8792)
上場企業は次の三つのケースのどれかに当てはまる。

 経営権を握る大株主がいない
 経営権を握る大株主がいてCEOも兼任している
 経営権を握る大株主はいるが経営に参加していない

ほとんどの企業は1番目のケースだが、実はこれは株主としては困ったことになりがちだ。なぜなら、取締役やCEOという立場が既得権益のようになってしまい、彼らになあなあにやられてしまうと株主利益が損なわれるからだ。
2
番目のケースでは、取締役の力は限定的で株主が報われるかどうかはCEO次第だ。
3
番目のケースでは、もしCEOに問題があれば取締役は大株主に直訴すれば事足りるので株主にとっては一番有利だ。

取締役が株主を無視して自己利益だけを追求するとどうなるか。
バフェットが経験したケースでは次のようになる。

(p100101)
 私が直接経験したことですが、最近、X社がある会社(バークシャーではありません)から買収の提案を受けました。この提案にはX社の経営者が賛成しており、その会社の投資銀行も大いにほめそやし、この数年間売買されている(あるいは現在売買されている)株価を上回る水準で実施される予定でした。さらに、何人かの取締役たちがこの取り引きに賛成し、株主に提案したいと望みました。
 しかし、年間総額一〇万ドルを超える取締役報酬や役員会報酬を受け取っている一部の取締役が提案を断りました。このため、この数十億ドル規模の提案について、株主が知ることはなかったのです。経営者ではない取締役たちは会社から受け取った株式以外はほとんど株を所有していませんでした。X社の株価はそれまでずっと買収提案を受けた価格よりもはるかに安かったにもかかわらず、この取締役たちが市場で購入したのはほんのわずかでした。言い換えるならば、自己の勘定で少額のX社株を安く買う機会があっても一貫して断り続けていたにもかかわらず、この取締役たちはX社が高く売れる買収案件を株主に提案したくなかったのです。……中略……取り引きを却下したその取締役会で、取締役報酬の大幅な引き上げが承認されたのです。

p102107
バークシャーは傘下の企業のCEOに対して事業の進め方についての口出しはしない。また、短期の利益を求めるよりも、彼らが長期的な競争力を高められるように環境を整備する。傘下にある訳だから、株式市場に振り回される心配もなければ、通常のCEOがやらなければならない種々の雑務(取締役会や記者会見、投資銀行家への説明や金融アナリストとの面談)をこなす必要もない。

p107114
傘下の繊維業はいろいろと手を尽くしても赤字続きなので廃業することにした。バークシャーのルーツでもあるし労使共に問題もなかったのでできれば続けたかったけど、斜陽産業なのでどうしようもなかった。

コモディティビジネスと化したアメリカ国内の繊維産業は、生産能力が過剰状態にある「世界の市場」で闘っています。私たちが抱えていた問題の源は、直接的にも間接的にも、アメリカ人が受け取る安い賃金のさらに数分の一で働く労働者を擁するる外国企業との競争にありました。……中略……繊維部門に投資することで利益を上げるという計画は非現実的なものでした。国内外を問わず、多くのライバル企業が同様の資本支出に踏み出しており、その数が一定数に達すれば、彼らの到達した低コストが基準線となり、業界全体の製品価格を押し下げたからです。

p115119
傘下の新聞社はすぐには手放さないけど、固定費は高いし先行きは暗そう。今や無料の情報源や娯楽は色々とあるからね。

p119123
傘下の鉄道会社と電力会社は、規制や社会的責任は大きいものの商売としては堅い。社会的責任として、電力料金を他社より安く設定したり、短期的な株主利益を追わずにインフラ整備のための資金をプールしたりしている。三方良しですね。

p123136
アメリカでは税制上優遇されるということもあって寄付文化が盛んなようだ。しかし、企業の寄付先については経営者が恣意的に選ぶことが普通だった。バークシャーでは、企業の利益の配分先は株主が決めるという原則に従って、1981年に寄付先を個々の株主が決められることにした。この決定は株主にかなり好意的に受け入れられて寄付先として多種多様な団体が選ばれた。
しかし、寄付先に中絶の合法化を推進する団体が含まれていることが気に入らない人たちがバークシャーの取引先の製品の不買運動を始めてしまったため、やむなくこの制度は2003年に中止した。制度による最終的な寄付総額は19700万ドルだった。

p136145
ストックオプションとは、会社に新規株式を発行させてそれをあらかじめ決められた値段で買うことのできる権利。会社は代金を手に入れ、権利者は株を手に入れる。権利者が得をした分だけ既存の株主は損失を被る。
業績と株価が上昇した暁にはボーナスを約束して社員のやる気を引き出すというのがストックオプションの本来の使い方。これによって社員と株主の利害が一致するのが良い点とされているが、バフェットは否定的だ。

経営者の実力はROC(資本利益率)によって計って報酬を決めるべき。利益を配当に回さないで全て内部留保すれば、ROCがずっと低い値のまま一定でも利益は複利的に増える。誰もこれを経営者の実力だとは認めないだろう。ストックオプションを付与されている不実な経営者にしてみれば、配当を出さない(内部留保にする)方が株価は上がるのでボーナスのうまみは増える。こんなことはおかしい。

(p154158)
傘下の企業の経営者の方たちに言いたいのだが、違法スレスレのことをやってまで利益を上げようとしないでほしい。そして何か悪いことが起こったら私バフェットまですぐに連絡を。その方が傷が浅くて済む。経営トップが襟を正して仕事をすることでそれが企業全体の文化となる。

お金を失っても――たとえたくさん失ったとしてもなんとかなります。しかし、信用を失ってしまえば――たとえほんのわずかであったとしても取り返しのつかないことになるのです。

(p162)
第1章は次の文章で締めくくられている。

私たちは、報酬体系から年次総会、年次報告書に至るまで、すべてにバークシャーの企業文化を強く反映させ、それになじまない経営者は寄せ付けないし、追い払います。バークシャーの文化は、年を追うごとに強化されており、マンガーや私がいなくなっても、長く受け継がれることでしょう。

p165171
バブル崩壊後のタイミングで農場と不動産を購入したよ。購入額に対する利益は両方とも年10%ほどで、市場が冷え込んでる時にはこういうおいしい取引ができる。私は農業や不動産業の専門家ではないけど、この利益率は簡単に算出できたので投資した。このように、ある分野を熟知していなくても良い投資はできる。でも、将来の利益予測ができないものには手を出さない。
株式投資で成功するためにも同様の原則で臨むべき。しかし、株は(農場や不動産と違って)市場が開いているときには時々刻々と価格が変化するし、ノイズみたいな株式ニュースもどんどん発信されるので、素人はそういうものに惑わされて頻繁に取引しがちだ。それじゃあ成功はおぼつかない。

(p171179)
「ミスターマーケット」とは株式市場を擬人化したもので、バフェットの先生であり経済学者のベンジャミン・グレアムの著作に登場する。その著作にあるたとえ話を分かりやすく言うと次のようになる:
あなたとマーケット氏はお互いに1億円ずつある企業に出資した。その企業は堅実に活動していたが、ある日マーケット氏は浮かない表情で「この企業に将来性はない。会社の私の持ち分を1500万円で買ってくれないだろうか。逆にあなたが売りたいなら1500万円で買ってもいい」と言ってきた。そうかと思えば別の日には明るい表情で「この企業の将来はバラ色だ。会社の私の持ち分は3億円なら売ってもいい。逆にあなたが売りたいなら3億円で買ってもいい」と言った。
このたとえ話から得られる教訓とは、気分屋のマーケット氏と同じように企業の価値を評価してはならず、彼の申し出をうまく利用することで富を築くことができるというものだ。

投資が成功しているかどうかは、毎日の価格でも、ましてや毎年の価格などでもなく、保有する市場性資産が何を生み出すかによって測っています。企業の成功が株価に反映されるのは一時的に遅れるかもしれませんが、必ずマーケットは追随するものです。「短期的に見るとマーケットは投票機にすぎないが、長期的で見れば計量器だ」というグレアムの言葉が示すとおりです。

株価の長期的な上昇を信じる人が、これから株に積み立て投資するなら、直近の株価は低迷していた方がより多くの枚数の株を買えるのでありがたい。パッとしない対象に投資するのが有利というのは逆説的に聞こえるかもしれないが、これは真実だ。

「市場は下落し、投資家に損失発生」という見出しを目にすれば、笑みがこぼれることでしょう。みなさんは心の中でこのように言い直しているはずです。「市場は下落し、投資を引き揚げる人々には損失発生――しかし、これから投資する人々にとっては利益に」

バークシャーは継続的な自社株買いを行う企業の株も持っているが、そういう会社の株が値下がりすれば同じ金額でより多くの自社株を買うことができるので、投資家にとっては有利となる。

p191208
バフェットの思想がよく表れている重要な節。もし彼が財務状況(数字)だけを見て投資判断をしているなら、同じように判断するプログラムを作ることは可能だが、そうではなくて彼はここで投資におけるある種の「常識」の重要性を強調している。その一例として、バービー人形とペットロック(一過性の流行を見せたオモチャ)の違いは非数字的に識別するしかないとしている。投資を数理的にしか捉えない人にとっては耳の痛い節だろう。

私は投資においてはまず全企業の長期的な経済的特色を調べ、次にその企業の経営者たちの資質を価値評価し、第三に最高と思える企業のいくつかを妥当な価格で買おうとするだろう。しかし、「効率的市場理論」によると、個々の銘柄に関する情報はすべて株価に適切に反映されているので、株の分析は無意味なのだそうだ。すると私の長年の実績にも根拠がないことになってしまう。こんなバカなことがあるだろうか。実際の市場はいつも完全に効率的な訳ではなくて、ほどほどに効率的であるに過ぎない。だからそこに付け込む隙もある。「効率的市場理論」の間違った教義が広く信じられているのは私にとっては好ましいことだ。市場全体で見れば敵失は我々の利益になるから。

とはいえ、市場は「ほどほどには」効率的な訳だから、もし自分の企業分析能力に自信がないなら、インデックスファンドを定期的に購入していけばいいよ。実際それで投資のプロにも勝てる。他方で、上の基準に照らして有力な企業を5社から10社ほど見つけられるなら、それらにのみ投資した方がいいよ。

「株価の変動率=リスク」という学者たちの考え方はバカげている。これによると、価格が急落してお買い得になった株はハイリスクということになってしまう。このように「リスク」を捉える人が多いのでその「リスク」を避けようと売りが売りを呼び、株式暴落を起こす。

p198
『確実に間違えるよりは、およそ正しいほうがよい』とあるが、「確実に」ではなく「厳密に」でないと意味が通りにくい。このフレーズは有名な経済学者のケインズによるもので、その意味は「細部にばかりこだわって全体像を見落とすという大ポカをするな」ということだ。「木を見て森を見ず」になるなということである。
ちなみに同節にはケインズの投資についての考え方が示されているが、バフェットと同じような結論に達していることは興味深い。

p208211
私は企業を完全買収する(その企業の株をすべて買う)時も部分買収する(部分的に株を買う)時も同じ基準を用いる。投資の有利さという点では前者に軍配が上がる。その理由は二つあり、第一に完全買収すれば資本の配分を我々の手によって行えるという利点がある。経営トップが現場の叩き上げなら、彼は必ずしも財務のプロではないから、そこは我々に任せてもらって本業に邁進してくれた方がいい。第二の理由は税金コストのことで、特に1986年の税法改正により、ある企業の株を80%以上持つ場合にはそうでない場合と比べてバークシャーの利益が5割増しとなった。
ただ、市場が冷え込んでいる時には有利に株を買い増せるから、将来そういう可能性があるという意味では部分買収にとどめておくのもいいかもね。

p217221
キャピタル・シティーズ社を買収したよ。買収にあたって同社の議決権は無期限で相手に譲り渡すということをはじめとする先方の様々な条件をのんだ。それでも買う価値があると思ったから。買収時の彼らの危惧を解消したかった。

議決権株式を多くの人が少しずつ保有していることで引き起こされる企業の不安定さは、今日では避けられないものです。人を安心させるような美辞麗句を口にしながら、傍若無人な要求を突き付けてくる大株主が突如として現れる可能性はいつでもあります。私たちが、所有する株をまとめて長期保有することの意図は、安定を確固たるものとすることにあります。

p221233
コカ・コーラ社とシーズ社(アメリカでは有名な高級菓子メーカー)の名前が挙げられているが、この2社はバークシャーの投資先として本書でたびたび登場する。バフェットはこういう設備投資や技術投資をほとんど行わなくても安定的に利益を上げられるブランド力のある企業を好む。
インターネット勃興期のIT企業はこの条件に当てはまらないのでバフェットは投資しなかった(当時はネット株バブルがふくらんでいて株価が魅力的ではないという事情もあった)。やがてバブルがはじけて企業淘汰が起こり、市場シェアを占める企業群がはっきりしたところでバフェットはそれらの企業の分析を行って、自分が理解できる範囲でIBMやアップル等に投資を行った。

名目GDPの成長率が5%なら、企業利益の平均的な伸び率も5%であるはずだ。しかし株価は急伸している。これはバブルでありいつかはじけるよ。

p233236
かなり安く買える場合でも先行きの暗い企業に投資するとろくなことにならない。その企業の経営者が優秀でもダメだ。名ジョッキーが駄馬に乗っても速くは走れないんだよ。そういう企業は今ある問題が片付いても次々と別の問題が発生して、結局満足な利益にならない。そんな困難をしょいこまずにもっと簡単な問題に取り組んだ方がいい。解決可能なピンチに陥っている超優良企業(かつてのアメリカン・エキスプレスやGEICO)に関わった方がずっとうまみがある。

p239244
バークシャーでは、大きなレバレッジはかけずに手元資金を十分に持っておく。危険な投資は株主への責任を果たしていることにならないし、傘下の保険会社の加入者への支払責任もあるからだ。この方針によって金融危機の最中でも有利な投資に回す資金があった。

多くの債務を抱える会社は、満期がくれば借り換えられるものと考えがちです。通常、そのように考えても誤りではありません。しかし会社特有の問題、あるいは世界的な信用収縮のために、期日に実際の支払いを迫られることもあるのです。それについて役立つのは現金だけです。

p246254
価値を生む企業(株)に投資するのが一番いいよ。債券に投資してもインフレ率を考えたらトントンくらいにしかならないから。利子さえつかない金(ゴールド)投資とかもってのほか。確かに2011年時点で金は値上がりしてるけど、それって価値の裏付けのない値上がりだから。バブルだから。ITバブルや住宅バブルをもう忘れたの?

1965年に1ドルで買えたものが2011年には7ドル出さないと買えず、1/7≒14% なので、ドルは86%も減価している。同期間の米国債の金利はざっくり平均すると年間5.7%でここから25%の所得税を引くと5.7%×0.75≒4.3%になる。1ドルを1965年から2011年まで年間4.3%で複利運用すると約7ドルとなり、つまり国債を買っても購買力はトントンにしかならない。

p254260
ウェルズ・ファーゴ銀行の株を大幅に買い増したよ。例によって市場が一時的な悲観に陥っていたので安く買えた。マーケットの空気ではなくて企業の内実を見て買わないとね。

p260267
かつて私たちは投資不適格債を買って成功したことがあります。といってもその債券は、元は投資適格債であったものが発行企業の業績悪化などによって格付けを落とされた、昔ながらの「堕ちた天使」でした。

自転車操業するしかない企業によるクズ債券と「堕ちた天使」の債券とは、利率が同水準に高くても性質が全く異なる。それなのに前者の債務不履行率は後者と同じくらい低いと勝手に仮定した金融商品が、手数料目当てに大量に売りさばかれた。それを買った人たちは大損したんだからひどい話だ。クズ債券をパッケージングして金融商品を作っても、それは「堕ちた天使」にはならないんだよ。

p267279
とても興味深い節。バフェットの色々な比喩も冴えている。



ここでテーマとなっているゼロクーポン債とは、通常のクーポン付きの債券(利付債)とは異なり、利子分があらかじめ差し引かれた価格で売られている債券のことだ。
上図の左側が5ドルのクーポンが3枚付いている償還額100ドルの利付債で、価格が100ドルだからこれを買うと3年間単利で5%儲けることができる。一方、同図の右側は3年後の償還額が330ドルのゼロクーポン債で、価格が285ドルだからこれを買うと3年間複利で毎年5%儲けることができる。(285×1.05×1.05×1.05=330



先ほどの利付債を「バラ売り」にするとどうなるだろうか。この場合4枚に分かれたものはそれぞれ「1年後に5ドルもらえる債券」「2年後に5ドルもらえる債券」「3年後に5ドルもらえる債券」「3年後に100ドルもらえる債券」となり、これらに一つずつ値段をつけることで総額100ドルの4枚のゼロクーポン債となる。本文中で「ストリップ(切り離す)」と言われているのはこういう意味だ。

年金基金のような長期運用する投資家にとっては、クーポンで現金をもらってもそれを再投資しなければ投資成績が落ちてしまう。だったら最初からゼロクーポン債を買っておけば期間中は何もしなくても複利で運用できる。そういう訳でこの債券は、これまでの利付債に代わってプロ向きとして人気を博していった。それはいいんだけど、支払い能力の低い企業までゼロクーポン債にどんどん飛びついていった。長期のゼロクーポン債は、今現金が調達できて期日まで現金(利子)を払う必要がないから悪用しやすいんだね。金融マンにしてみれば手数料さえ稼げれば売物の中身は何でもいいみたい。ウォール街ってこんなのばっかり。客が破滅してもいいのかよ。

分別あるバーテンダーは、酒一杯分の利益を失うことになろうとも、客にこれ以上飲ませれば酩酊状態になると思えば、注文を断ります。投資銀行員は、少なくとも彼らと同じように分別ある行動を取るべきです。

p279298
「優先株」とはやや特殊な株式のことで、一般的な個人投資家は購入できない。この株式は社債と比べると値動きがある分ハイリスクハイリターンで、普通株と比べると配当を優先的にもらえる代わりに売却金額に上限があったりしてローリスクローリターンだ。
バフェットは大口株主の特権として、いくつかの企業と条件交渉してその優先株を取得した。しかし、優先株への投資は総体としてはパッとしなかったようだ。その理由は、もしある企業やその業界に問題があるなら、たとえ優先株に投資しても損失をこうむるし、もし投資先の企業を綿密に分析できていて自信があるなら、リスクを厭わずに普通株に投資した方が儲けが大きいからだ。とはいえ、巨額の資金を動かす者としてはそういう慎重さは必要なのかもしれない。

p299316
株の売買取引は普通売り手と買い手とそれを仲介する証券会社により行われるが、金融派生商品の取引は、例えば次のようになる:

Aさん「今から1年後にTOPIX8%は上がってるぞ。100万円賭けてもいい」
B
さん「乗った。8%未満なら俺の勝ちな」
C
さん「契約成立ですね。では私は、敗者から100万円徴収して3%の手数料を引いて97万円を勝者にお渡しします」

ここでCさんがあらかじめ二人から100万円ずつ預かっておけば支払いの不履行は起こりえないのだが、金融派生商品の取引では必ずしも証拠金を取っておかなくてもいいらしい。すると1年間は、契約が履行されるかもしれないしされないかもしれないという不安定な状態になる。(株の売買なら値段が折り合えば取引はただちに行われる)
そして半年後にTOPIX2%しか上がっていなかったとしよう。Bさんはほとんど勝った気になって、この時点での契約の評価額を+90万円とみなした。一方でAさんは「まだ負けと決まったわけではない」と気を強く持ち契約の評価額を-15万円とみなした。90-15=75 となり、無から有(75万円)が生じてしまっている。AさんとBさんが法人だとすれば、それぞれ自社が持つ金融商品の評価額を甘めに見積もっていることになり、これを公表すれば投資家は判断を誤ってしまうだろう。

また、Bさんが勝った時の100万円を取引先への支払いとして当てにするなら、もし負けた時に影響が他社にまで連鎖的に広がってしまう。

本節の内容をエッセンスだけ紹介するとこのようになるが、金融派生商品の全容は誰にも分からない。バフェットは、「こうした商品を扱う当事者と経済システムの両方にとって時限爆弾のようなもの」と言っている。

p316327
バークシャーは2002年に初めて外国為替取引を行った。アメリカは他国からの輸入に頼った消費が多く、同年の終わりごろにドルは他の通貨に対して弱くなっていったのでリスクを分散させたかったからだ。

アメリカの経常収支の赤字(貿易赤字により巨額に膨れ上がっている)と国家財政の赤字はよく「双子の赤字」などと呼ばれて一緒くたにされているが、この二つは全く性質が異なる。前者は、アメリカの資産や生産物が他国の人のものになるということであり、アメリカ人は実質的に貧しくなる。しかし後者は、国内でお金や生産物をどのように回すかという問題にすぎず、どんな国家財政でもアメリカ全体で見たときに国民に得失はない。
という訳で、問題なのは大きすぎる貿易赤字だ。アメリカ人は、過剰な消費を賄うために自分の農場を切り売りし続けているようなものだ。みんな消費を控えてもっと貯蓄するべき。政府も貿易赤字について有効な対策を打つべき。

p327333
有名な「サブプライムローン」についての節。

自分の所得ではとうてい返済ができないような借り手に対して、貸し手は喜んで貸し付けを行い、借り手はその支払いを行う契約に同じように喜んで署名しました。両方の当事者が「住宅価格の値上がり」を当てにして、それが実現しなければとても無理な契約を結んだのです。

かくしてサブプライムローン問題が起こるのだが、バフェットも関わった住宅業者のクレイトン社からの借り手は、住宅市場が崩壊したあとでも通常どおりに返済を続ける者がほとんどだった。これは、同社が借り手の収入に応じて貸し付けるという原則を守ったからだ。自分の収入でローンが組める範囲で住める家を求めている者は、転売して儲けるのが目的ではないので住宅価格が上がろうが下がろうがその家に住み続けるし、毎月の返済が滞ることもない。

p337343
株主が得られる利益というのは、基本的には投資先の企業の利益とイコールだ(他にどこからお金が出てくるというのだろうか)。だから、ある企業を100%所有していて全く売買しなければ取引コストはゼロで、すべての利益はそのオーナーのものになる。しかし現在では、「売買仲介業者」「プロの資産運用者」「ファイナンシャルプランナー」「法人コンサルタント」「ヘッジファンド」「プライベートエクイティ」といったものたちが取引に絡んでくることで、企業利益の約20%がかすめ取られている。

p343349
その点バークシャー株ってすげぇよな。低コストで取引できる体制を整えてるもん。

p349355
「配当政策」とは、企業が稼いだ利益のうちどれだけを株主に配当して、どれだけを事業への再投資に充てるかを決めることだ。急成長している分野の人気商品を作っている企業の工場がフル稼働しているなら、利益は全てその生産設備の再投資に充てた方がいいに決まっている。そういう分かりやすい場合を除けば、ある企業の株主の立場として配当が嬉しいか再投資が嬉しいかは、その企業の成長性や安定性をどう評価するかで人によって意見が分かれるだろう。
配当をもらった株主が、その資金を別の有望と思える企業の投資に充てるように、複数の事業を行う企業においても将来性のない事業からの利益を、将来有望な事業への投資に回すべきだ。
こういう配当政策の基本を無視して、企業の経営者は会社に資金的余裕を持たせておきたいという理由から、利益を配当も再投資もせずに会社に死蔵させがちだが、これは株主に対する裏切り行為だ。

p356367
「自社株買い」とは株式会社が余裕資金で自社の株を買うこと。買った後に「消却」を行うことで株数が減るので、これにより1株当たりの利益が増える。すると株価が上がりやすくなるので既存の株主は報われる。

1970年代に大規模な自社株買いを行った会社は、企業が過小評価されていてお買い得で、株主指向の経営が行われていることが多かった。でも今や猫も杓子も自社株買いで、その目的もただの株価対策だ。
バークシャーで自社株買いを行うのは、事業運営や流動性のための資金を十分に確保した上でまだ資金的余裕があり、なおかつ株価が内在価値を大きく下回っている場合に限る。

p367382
株式分割とは、ある企業が自社の株数を何倍かに増やす行為のことだ。例えば1株を10株に分割すると、一万円札を千円札10枚に両替するのと同じように、株の枚数は10倍になり1株あたりの売買価格は1/10に収束する。
理論的には株式分割によって既存の株主に得失はないはずだが、実際には分割によって1株あたり値段が下がることにより取引が活発になり当該株に人気が出るのではないかという思惑等から、分割前よりその後の方が株式時価総額が上昇することもある。
言うまでもなくこれはまやかしの株価上昇であり、そういうものに釣られるような人達が大挙してバークシャー株に押し寄せると、株価が乱高下して既存の株主の利益にならないことから、バフェットはこれまでバークシャー株の分割は行わないできた。その結果、同社の株主は比較的少数の長期保有者によって占められるようになった。また彼らはバークシャー株が自分の資産の大部分である場合が多い。
そうなると、長年運用されたことにより高額になったバークシャー株の株主はある問題を抱えることになる。それは相続税対策として毎年一定の資産を身内に贈与したいと思っても、バークシャー株の1株あたり値段が高すぎることからそれが上手くいかないということだ。
そこでバフェットは株主自身の選択で1株を30株に分割できるような仕組みを作った。ただし分割後の株の投票権は(1/30ではなくて)1/200に減少して、さらに当時行っていた慈善活動プログラムへの参加資格もない。このルールによって分割は必要最小限におさえられる。分割前の株は「A株」、分割後の株は「B株」と呼ばれて区別されるようになった。
さらに、当時バークシャー株は割高だったので新たに「B株」を発行して市場で売りに出した。これで、今や庶民でもバークシャーに投資することができる。「B株」は日本の大手証券会社でも取り扱いがある。

なお、当時はバークシャー株を勝手に組み込んで小口化したクローンファンドが登場しそうになっており、「B株」の創設はこれを潰したいという思いもあった。「そんなものを買うより、本家が小口化した手数料も安いものがありますよ」という訳だ。バフェットにとっては、長期投資の思想に賛同した人たちが「B株」を買う方が、クローンファンドが激しく売買されて本家の株価がそれにつられて変動する事態よりも好ましい。

p383384
次に紹介するのは経営についてのバフェットのことばだが、人生一般にも当てはまる金言。

失敗するときというのは、たいてい先に自分たちに都合のよい答を持って始めて、それをあとから正当化するための理由を考えた場合です。もちろん、これは無意識に行っていることですが、だからこそ危険なのです。……中略……私はかつて本業だった繊維事業について、二〇年間の経営努力と資本の改善は無駄だったと書きました。私はこの事業を成功させたかったし、それまでの誤った判断を私のやり方で正したいと思いました(ニューイングランド地方の別の繊維会社まで買ってしまいました)。残念ながら、願えば夢がかなうのはディズニー映画のなかだけで、ビジネスにおいては毒になります。

p383390
バークシャーは複合企業なので、有利な再投資の機会を容易に見つけることができる。だから配当は出さずに利益の全てを再投資に充てるけど、その方がトータルで株主の利益は増えるよ。だから我々を信じて任せてほしい。「有利な再投資の機会」というのは、場合によっては自社株買いも含まれるよ。

かつて株主総会で「バークシャーは配当を出すべき」という動議が提出されたことがあったけど、反対98%で否決された。バークシャーの理念が株主と共有できているようで嬉しい。

p391
コーラうめぇ。

p392
5章の「合併・買収」は次のように始まる。

バークシャーの仕事のうちでマンガーと私の気分を最も高揚させるのは、私たちが好ましいと思い、信頼し、尊敬する人々が経営する、優れた経済的特徴を備えた企業を買収することです。このような買収は容易ではありませんが、私たちは絶えずそうした対象を探しています。これは相性のよい結婚相手を探すときと同じ姿勢で行います。積極的で、関心があり、そして偏見のないことが必要ですが、急いではいけません。

p392412
企業を合併・買収する時の基本は次の通り。

・利益率の高い企業と低い企業が対等な条件で合併したら、合併後の利益率は中くらいになり、元の高い利益率の方の株主は損をすることになる。低い利益率の方の株主は得をする。
・買収する側の企業の株主にとって、自社の株が市場で過大評価されていたら、新規株式を発行してそれで買収すれば有利だ。逆に過小評価されていれば自社の余剰現金で買収するのが有利だ。
・買収される側の企業の株が市場で過小評価されていれば、買収のチャンスだ。

しかし現実にはこういう基本を無視して、CEOはしばしば株主利益に反するような買収を行う。企業が大きくなって自分の権限が増えるのが嬉しいんだろうね。
バークシャーでは株主利益を常に考え、素晴らしい企業だけを買収して拡大を続けてきたよ。

私たちの目標とは、その事業を理解でき、また長期にわたり良好な経済状態を保つことができ、好ましくかつ尊敬と信頼のできる経営者によって経営されていると信じる企業の一部分か、すべてを買収することです。

p413418
この節はマンガーによる「レバレッジ・バイアウト」の現状についての解説。

まず、通常の企業は自己資本(株主資本)に加えて銀行からの借入を行っている。その方が事業が大きくなりより多くの利益を稼ぐことができるからだ(これを「財務レバレッジ」という)。ただし、借入金の額が大きすぎると金利の上昇に対して弱くなったりするので、いくら借りるかはバランスの問題だ。
レバレッジ・バイアウトとは「対象企業の資産を担保にした借入金による企業買収」のことだ。これが成功して二社が合併すると、買収後の「買収元と買収先の負債の合計」が買収前のそれより大きくなる。つまり企業の財務レバレッジを無理矢理いじることによって買収している訳で、そんな買収のやり方があるのかと感心すると同時に、自社の資産ではなくて他社の資産を担保に借入を行うという手法はどうしても胡散臭く思えてしまう。

p418424
企業の買収では、買収するよりされる側がどうしても有利になってしまう。買われる側は自社の事業内容について細かい部分まで知っているし、業績の浮き沈みも理解していて売り時として有利なタイミングを選べるからだ。
それでも買う側のバークシャーには有利な点があり、それは我々が特定の事業に入れ込んでいないため何が何でも買いたいという態度は示さずに、他のいろいろな投資機会とも比較検討して買収先を慎重に選べるということだ。

p424431
オーナー経営者にとって自分の会社は重要な資産だが、事業には浮き沈みがあり利害関係者からのプレッシャーも強いことから、どこかの時点で自社を売って現金に換えて安定を得たいと思うのも無理からぬことだろう。
そういうときの現実的な売却先としては「同業他社」と「企業転売屋」の二つが挙げられる。前者の場合、自社を売った後も引き続き経営にあたりたいと思っても、相手には相手の経営方針がありなかなか難しいだろう。後者も企業の良い買い手とはいえない。
そんな時にバークシャーは売却先としては理想的だ。我々は買収後も元の経営者が以前と変わらず経営にあたってくれることを望むし、そのための自治権も与える。それが我々の利益にもなるからだ。だから長年かけて築いた自分の事業全体を大切に思い、これらを変えられたくないなら、どうぞ私までご連絡を。

p431437
IT
バブルが崩壊して債券市場で債務不履行が急増したため、借入に頼るレバレッジ・バイアウトは下火になったようだ。

p439
アイスうめぇ。

p440446
投資の基本は、「事業によって儲かる金額とその実現確率と実現までの期間」を同期間にリスクなしで得られる国債金利と比べることだ。このうち、金利だけはハッキリした値が分かるが他のものは値の範囲を推定するしかない。私は株主の皆さんに損をさせないために、この値の範囲内でも厳しめの数値を用いている。
株価が上昇しているときは、みんなこの基本を忘れてイケイケどんどんで投資してしまう。危なっかしいなあ。

p447454
投資や企業を評価する方法として、内在価値は唯一の論理的かつ非常に重要な概念です。内在価値は、簡潔には次のように定義できます。それは、ある企業がその存続期間を通じて生むすべてのキャッシュフローを割り引いた現在価値である、と。

つまり、ある企業の将来利益が確実であるほど、また同期間の金利が低いほど割り引き現在価値は低くなる(=当該企業の株価は高くなる)ということだ。

しかし、内在価値の計算はそれほど簡単ではありません。私たちの定義が示すように内在価値は正確な数値というよりは推測値にすぎず、金利が変動したり、将来のキャッシュフローの予測が変化した時には見直さなければなりません。

我々はバークシャーの内在価値が株価に近づくように、内在価値を推定するために用いている事実や会社の資産状態を定期的に発表している。
バークシャーも株式を発行している以上は、その時々の市況により内在価値に比べて株価が高めだったり安めだったりするが、幸いにして当社に興味を持つのは長期投資に理解のある理性的な人が多いので、内在価値と株価が大きく食い違うことは少ない。これは、バークシャー株を売買する人たちが公平に扱われやすいということだ。

上場企業では、株価と内在価値がかみ合っているときに公平性が保てます。明らかにいつもこのようにはいきませんが、経営者は経営方針と市場とのコミュニケーションを通じて公平性が保たれるように働きかけることはできます。

p457466
バークシャーが20%以上株を持っている企業の純利益は、会計上の処理によって連結決算で全てバークシャーの利益として計上される。しかし、20%未満の場合には対象企業の純利益のうち配当に回した分(配当益)しか計上されない。それ以外は一見消えたように見えるけど、ちゃんとあるからね。心配しないでね。配当されない利益(保留利益)が内在価値上昇のためにうまく使われるなら株主は報われるよ。
1980
年前後と1990年前後は株式の「買い場」が訪れたため、一見消えたように見える利益がバークシャーの利益全体の半分以上を占めるようになった。

簡単に言うと、あなたがある企業の株を直接買っても、バークシャーを通じて所有しても得られる利益は同じということだ。バークシャー株への投資を考えている人は、この節の内容は押さえておきたい。

p467483
バフェットの投資哲学が分かる重要な節。

ここで言われている「のれん」は、「ブランド(無形資産)」と読み替えると分かりやすい。例えば、簿価5億円の工場設備を持つ企業が15億円で買収されたとすると、新しい会社は「工場設備5億円+のれん10億円」の合計15億円の簿価となる。有形資産との差額分が「のれん」として計上される訳だ。
以前のバフェットは有形資産を重視して投資先を決めていたが、長年投資をしているうちに、同じだけの利益が上がるなら、無形資産が多い企業の方が設備投資費がかからない分有利だと気付いて、無形資産の方を重視するようになった。その例として、本文中に次の2社が登場する。

・純有形固定資産が800万ドルで、税引き後利益が200万ドルのシーズ社
・純有形固定資産が1800万ドルで、税引き後利益が200万ドルの平凡な架空の会社

このうち前者は実際に2500万ドルで買収された(のれんとして2500万ドルから800万ドルを引いた1700万ドルが発生した)。では後者も同じだけの価値があるのかというと、バフェットはせいぜい純有形固定資産と同じ1800万ドルの価値しか認めない。
二社の数字を比較すると、前者の方が資本効率いいし、インフレが起こったときに固定資産の維持費がかさみにくいのも前者だからだ。よってバフェットはシーズ社により高い評価額を付ける。
あるいは次のように考えることもできる。この二社が事業を拡大して利益を2倍に増やすには単純計算で前者は800万ドル必要なのに対して、後者は1800万ドルも必要になる。自社の純利益だけからこれを賄うと、前者は4年かかるのに対して、後者は9年もかかってしまう。

p486498
さて、シーズ社の場合には買収時に1700万ドルの「のれん」が発生した。通常、これは40年をかけて減価償却されて簿価がゼロになる。シーズ社の事業は買収前も、買収直後も、買収後40年経った後も変わらないのに、帳簿上の「のれん」という資産は現れたり消えたりする。だから「のれん」と本当のブランド価値は一致せず、会社の本当の価値は投資家が精査しなければならない。
この節では、会社が買収された場合とされなかった場合を比較して、それぞれの簿価がどうなるかを技術的詳細に立ち入りながら説明している。

p506518
法的な会計ルールがどのようなものであれ、企業が株主に示すべき情報は次の三つだ。

この会社はおおまかにいくらの価値があるのか。
この会社が将来の義務を果たせる可能性はどのくらい高いか。
経営者は与えられた経営資源の下で、どのくらいうまくやっているか。

しかし現実には、会計ルールの穴を突くような方法で見せかけの好業績が示されることが多い。「風刺」と題された節はベンジャミン・グレアムが書いたもので、「工場勘定をマイナスで計上し、人件費をなくし、在庫を実質的にゼロに評価する」という無茶苦茶な会計操作により見せかけの業績が作れることを示している。

p518520
アメリカの企業は政治に圧力をかけて、自分たちの望む会計ルール認めさせてしまった。結果として決算の公正さは大きく損なわれた。

アメリカ企業は上院を手の内に入れ、SEC(注:証券取引委員会)を打ち負かし、今や会計については意のままになりました。これで、決算報告についてはどんなことでもまかり通る新しい時代――大手の監査法人があがめ奉り、時には後押しもする――が始まりました。勝手気ままな行為は間もなく急速に横行し、巨大なバブルを膨らませることになりました。
S&P
五〇〇社のうち、四九八社があまり望ましくない方法を取り、言うまでもなくそのことは高い「利益」の報告につながりました。役員報酬を切望するCEOはこの結果が気に入ったようです。

p521528
評価するのが難しいという理由でストックオプションを費用計上しないのはおかしい。航空機の減価償却費がいくらであるべきかとか、貸し倒れ引当金はいくら積み立てておくかとか、保険金の支払額はいくらになるかとかも難しい問題だけど、これらが無視されることはないでしょ?
バークシャーでは関連企業がストックオプションを発行している場合は、ちゃんとその費用を明るみに出すよ。そうしないと正確な企業評価ができないから。

p529535
負債は通常、毎期計上されるものだけど、これをある一つの期に全て「押し付ける」ことでそれ以外の期の業績を好調に見せかけるという会計手法が横行しているよ。特に企業が合併して会計が分かりにくくなるタイミングで行われるよ。

p535540
多くの企業の年金基金で株式を運用しているが、その運用益は過大に見積もられている。よって、実際に企業が負担することになる年金額は公にされているものより大きくなるだろう。また、人の寿命が延びたため企業が負担する健康保険料もバカにならない。1993年に会計基準が変更されるまで退職者健康保険の費用は計上しなくてもよかったため、この問題は真面目に考えられてこなかったのだろう。

p545548
政府が法人税率を変更した場合、そのほとんどが企業の負担(利益)となるか、または企業が製品価格に転嫁するためほとんど消費者の負担(利益)となるかのどちらか一方に傾きがちだ。どちらになるかは、企業のフランチャイズの強力さと、その収益に対する規制の有無にかにかかっている。

例えば、利益に対する規制がある電力会社では、税率の変更は電力価格にはね返るため、その影響を受けるのは消費者だ。また、価格競争が激しくてフランチャイズが非常に弱い業界でも、税率の変更の影響を受けるのは企業ではなくて消費者となる。
一方で、フランチャイズが強力で規制もない企業では、例えば法人税が減税されるとその恩恵をほぼ完全に受けられる。バークシャーではこのような企業を数多く持っている。

p549552
株の値上がり益に対する課税(キャピタルゲイン課税)が投資成績にどう影響するかを解説していて、数理的になかなか興味深い。この節の内容を以下に分かりやすくアレンジしてみる:

Aさんは毎年13%の複利で運用できる一つの銘柄に投資してずっと持っておく
Bさんも常に年利13%で株を運用するが、目移りが激しいため1年ごとに別の株に買い換える
・両者のキャピタルゲイン課税は共に20%とする

100万円で買った株が110万円に値上がりしたとしてこれを売ると、2万円が課税される。つまり、儲けの10万円のうち8万円は投資家のもので、残りの2万円は国のものという訳だ。ただし、このキャピタルゲイン課税は株を売らない限りは(含み益を実現しない限りは)払わなくてよい。この例で値上がりした株を売らずに持っておくということは、バフェットも言うように「国から2万円を無利子・無期限で借りている」ようなものだ。この「借入金」は値上がりによる含み益が大きければそれだけ大きくなり、長期投資において威力を発揮する。

さて、Aさんは13%の複利で運用して投資を終える時に1回だけ課税されるので、n年間運用した場合、儲けに相当する部分が課税により0.8倍になるので、

Aさんの最終評価額=購入時株価+(売却時株価−購入時株価)×0.8
         =購入時株価+(購入時株価×1.13^n−購入時株価)×0.8
         =購入時株価×0.2+購入時株価×1.13^n×0.8

となる。

一方で、Bさんは13%の利率で運用するものの、毎年課税される分を引くと結局のところ10.4%(=13%×0.8)の複利で運用しているのと同じことになる。この場合、

Bさんの最終評価額=初回購入時株価×1.104^n

となる。

Aさんの購入時株価とBさんの初回購入時株価を共に1円として、最終評価額をグラフにして比べると次のようになる。



見ての通り、最初の方では目立った差はつかないが、投資期間が長くなるほど納税の先延ばしの効果が大きくなる。この差は式を見ても明らかなように、13%の複利効果と10.4%の複利効果の違いからきている。参考までに、100万円を1億円にするのにかかる時間は、前者では39.49年なのに対して後者では46.55年となる。

実はこの13%という数字は、2019年の年初前後のバークシャー株のおおよその益回りから取っている。(バフェットは本書で、バークシャー株が好調な時期には5年で株価が2倍になると言っていて、それを達成するには複利で年14.87%増やす必要がある。)
という訳で、バークシャー株に投資してずっと持っておけばAさんと同じような投資成績となるだろう(もちろん株式である以上は売買する時期によって成績の変動はあるが)。バフェットもかつては短期売買を繰り返して利益を取りにいっていたことがあったそうだが、現在ではバークシャーの大株主としてずっと株を持ち続けている。

今では、仮に長期投資することで収益率が若干落ちても、そちらを好みます。理由は単純です。素晴らしいビジネス関係は非常にまれで、見つかった場合非常に楽しく、そこから発展するものすべてを保っていきたいと思うからです。(この部分はp545からの引用)

p554556
租税政策の担当者が、バークシャーが納税の義務を果たしていないかのような演説を行ったが、ひどい言いがかりだ。我が社は2003年度に、額にして33億ドル、率にして全アメリカ企業の所得税額の2.5%も負担している。

p558579
バークシャーの特性や強みについて述べられている重要な節。同社への投資を考えるなら目を通しておくべき。

かつてコングロマリット(複合企業)が数回流行したことがあったが、それらは無茶な規模拡大をしていっただけのものだったので、今やそれらへの投資家の評判は悪い。バークシャーもコングロマリットの構造を取っているが考え方が大きく異なる。
バークシャーでは、コングロマリット全体としてみたときに、利益を投資効率の高い企業に重点的に振り向けることができる。一つの事業しか行っていない会社ではこうはいかない。そして当社は投資事業もしているので、素晴らしい会社の一部(普通株)を買うという選択肢もある。さらにバークシャーは、素晴らしい会社の経営者や所有者にとって、社員や文化が維持される望ましい売却先としても名が通っている。最後に、コングロマリット全体として利益や費用を計算するため、控除等の節税効果もある。

バークシャー株に投資した人が、永遠に買値を下回る株価に甘んじなければならない可能性は極めて低い。一株当たりの本質的事業価値は今後も間違いなく上昇していくから。ただしPBR2倍近い高値の時に買えば利益が出るまでに何年もかかるかもね。そして、12年の短期だと株式市場全体の動きの方がものを言うので長期で保有してほしい。あと、バークシャー株が半値くらいに下落したことも過去に3回あったので、レバレッジを効かせて買うのは危険だよ。
バークシャーが資金難に陥ることはありえない。膨大な数の事業から巨大な収益があるし、現金等価物も十分持っているし、急に多額の資金が必要になる事業や投資には関わらないからだ。だから金融危機が起こっても大丈夫。
バークシャーは保守的な経営を行っているけど、今後も買収や新規分野への参入で利益を上げていくよ。アメリカ経済が強いことも追い風になっている。

とはいえ、バークシャーは規模が大きくなりすぎて、アメリカ企業の平均利益率は上回るものの、今後は劇的に発展することはないだろう。おそらく2025年〜2035年あたりに、当社の全ての利益を賢く再投資できない水準に達する。その時には自社株買いや配当で株主に報いるからね。

良い取締役や経営者とその後継者候補は確保できているので、私やマンガーがいなくなっても理想的な状態を維持できる体制は整っているよ。投資についても傘下の事業や買収計画と色々と調整しつつ数人の専門家が対処していく。我々の企業文化は末端まで行き渡っているし、傘下の企業もバークシャーと価値観を共有しているよ。

p579587
この節はマンガーによって書かれている。これまでの本書の内容と重複する部分も多いが、復習として読むには好適。バークシャーの仕組みや、バフェットの思想・軌跡についてまとめられている。

p588593
我々は今後も選定基準を下げることなく企業を厳選して投資を続けていく。また、投資するに当たってはその時々の政治経済的な動向は気にしない。どんな歴史的なイベントが起きようが、素晴らしい企業を相応な価格で買えばうまくいくという原則はずっと有効だったからだ。だから市場が不安のピークに達している時にもこの原則を守るし、そういう時こそ最高の買い物ができることが多い。

恐れは、流行に流される人には敵であっても、原理に忠実な者にとっては友だちなのです。

私が衰えて、CEOの責務を果たすことができないと同僚が判断し時には、辞任を求められることになっているので株主の皆さんは安心してほしい。なお、私が亡くなったら個人資産は五つの慈善基金に寄付するように遺言している。これらの基金は素晴らしい人々に管理されているので、彼らに賢くお金を使ってもらいたいからだ。

湿っぽい話になってしまった。まあ私は今のところ健康だし、バークシャーの経営も楽しんでいるし、あと900年くらいは生きるつもりだけどね。









inserted by FC2 system